「影山?お前、なんか変わったな」
昨晩学校帰りに立ち寄ったコンビニで、偶然同中だった奴に会い唐突にそう言われた。
声を掛けられたのはいいが、
えっ?こいつ誰だっけ?
一瞬誰だったかすぐに頭に浮かばず、
「そうか?」
首を傾げ返答しながら、
ああ、そういえばクラスにこんな感じの奴いたなと思い出す。
「元気だったか?」
元気だったか?なんて、お前と別れたの先月だけど。
「ああ」
そう軽く返事をしながら、心の中で思わず突っ込みを入れる。
それに変わったって言うけど、そもそも中学卒業してそんなまだ経ってるわけでも無いのに、ああ、こいつなんか変わったなって感じるもんなのか?
そういうのって、もっと何年かしたりしてから言うもんじゃねーの?
なんか胡散くせー。
目の前でペラペラと話すそいつの話を右から左へと流しながら、俺は立ち読みしていた雑誌の続きを捲った。
奴の話の途中で何か問われ、雑誌に目を落としたまま適当に「ああ、そうだな」と答える。
そうだ、変わったといえば、青葉城西に練習試合に行った時、試合中金田一も自分をビックリしたような顔で見てたな。
ふいに練習試合の時の金田一の顔が頭を掠めた。
まぁ、あれは俺があいつに合わせてトス上げてたからなんだろうが。
中学時代の俺を知っている奴なら驚くのも無理ないかもな。
「お前、高校どこ行ったんだっけ」
話したいことが一通り終わったのか、そういえばと聞かれる。
「烏野」と短く答えると、
「烏野?お前なら白鳥沢か青葉城西行くんだと思ってた」
吃驚したような表情と、もう何度となく聞く言葉に、
くそっ。またかよ。どうせ白鳥沢には落ちたよ。
「ほっとけよ」
口を尖らせ視線を紙面に落とした。
「なぁ、烏野でもバレーやってんのか?」
「ああ、まぁな」
「そっか、お前ホントバレーばっかだったもんな」
「・・・・・・」
確かにずっとバレーの事ばかり考えていた。
一つでも多く勝ち進むことばかりを。
でもいくら高い志があって頑張っても、自分一人では試合は成り立たない。
一人で頑張ったところで、それはただの空回りでしかないのだ。
雑誌を握る手にぐっと力が入る。
元クラスメイトは複雑な俺の胸の内を知ることもなく、「高校でも頑張ってんだな」言いながらニッと笑うと
「んじゃ、オレ行くわ。じゃあな」
さっさと自分の買い物を済ませ、コンビニを出て行ってしまった。
なんだったんだ。
胸の中に何とも言えない気持ちが広がる。
「お前、なんか変わったな」
変わったか?俺。
コンビニで買ったジュースを啜りながら夜道を歩く。
自分自身はそんな変わったとは思えないが、バレーのスタイルは確かに日向に会ってから変わったというのは自覚がある。
チビなのに高いジャンプ力。自分の身体を自由に操れるしなやかさ。
中学の頃は、自分のトスのスピードに合わせてくれる奴ばかり求めていたけれど、でも何かを求めていたばかりではバレーにはならない。
あいつには付いていけないです。
蘇る苦い記憶に、胸の辺りをギュッと掴む。
誰かに自分が合わせてトスを上げるなど数か月前までは想像もつかなかったけど、けれど打たせるためのトスも悪くないというのを俺は日向に出会ってから知った。
あいつの打ちやすいボールをピンポイントで上げれば、あいつは自分を信じて飛んでくれる。
なんだか自分がコントロールしているみたいでおもしろい。
それにあいつは自分が上げたトスを、嬉しそうに打ってくれるのだ。
なんだかな。
自分を変えてしまうほど日向の存在が大きいのもなんだか癪だけど。でも今の自分のバレーは、前よりもずっと好きかもしれない。
よし、明日もあいつをしごいてやろう。
不敵に顔をニヤつかせると、俺は足早に家路へと急いだ。